手法

集団を見る技術を、事業に持ち込む

一人の声を聞くだけでは、何が起きているかは分からない。

原因が分からなくても、手は打てる

19世紀のロンドンでコレラが流行したとき、ジョン・スノウという医師は、患者の発生場所を地図に落としました。すると、ある井戸の周辺に集中していることが見えます。彼はその井戸の使用を止めさせ、流行は収まりました。

コレラ菌が発見される前の出来事です。 原因物質が何かは分かっていませんでした。それでも、どこで、誰に、どのくらい起きているかという分布を見ることで、有効な手を打てたのです。

これが疫学という学問の出発点です。集団の中で起きていることの分布と、その決定要因を明らかにし、予防や介入の方法を導く。個人ではなく集団を対象にした健康の科学として発展してきました。

事業にとって重要なのは、この一点です。仕組みが完全に分からなくても、分布が見えれば動ける。

何を見るかで、手法が変わる

疫学で使われる研究の型は、事業の場面にそのまま対応します。

研究の型 何をするか 事業での使いどころ
観察研究 自然な経過を追って、要因と結果の関係を探る 利用者の行動データから、継続や単価に効いている要因を特定する
横断研究 ある時点での状態を比較する 市場調査、顧客層ごとの違いの把握
記述的研究 対象に起きた現象を、そのまま記述する 特定の集団を深く理解する、想定顧客像を描く

いずれも「誰が、いつ、どこで、なぜ、何が起きたか」という同じ構造で物事を捉えています。この形で問いを立てると、集めるべきデータが決まります。

一人の測定を、集団の判断につなげる

個別の数値は、束ね方を決めて初めて意味を持ちます。

たとえば100人に測定を行い、ある能力を点数として記録したとします。そこに居住地域や職種といった属性を組み合わせると、地域差や職種差が見えます。別の指標との関係を見れば、何が何に効いているのかという仮説が立ちます。

個人の測定が、判断になるまで
  1. 一人ずつ測る 型を決めて記録する
  2. 属性で束ねる 地域、職種、年代など
  3. 傾向を見る 差が出るのはどこか
  4. 施策を設計する どこに手を打つか
  5. 商品・サービスを直す そしてまた測る

個人を理解することから始めて、集団の傾向を捉え、施策を設計し、商品やサービスの改善に至る。 この道筋を最初に描いておくと、何を測るべきかが決まります。

嗅覚の調査で「気づけていない人が約70%」「自覚している人は約20%」という二つの数値を並べたのは、この道筋を先に描いていたからです。片方だけを集めていたら、自覚と実態のずれという構造は見えませんでした。

経験則から、確かめられる判断へ

長く事業をやっていると、経験に基づく勘は当たります。問題は、それが人に引き継げないことと、外れたときに理由が分からないことです。

疫学の視点は、勘を否定するものではありません。勘で立てた仮説を、確かめられる形にするための道具です。

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