事例

香りのtoB事業を、引き合い待ちから根拠のある事業へ

クライアント
株式会社フィッツコーポレーション
分類
メーカー
事業チーム規模
5〜10名
実施したこと
研究デザイン、エビデンス整理、価値提案の言語化、事業計画整理、補助金申請
該当する課題
  • 最初の顧客はいるが、売れ方に再現性がない
  • どの市場・どの顧客に集中すべきか定まらない
  • 技術やサービスの強みを、顧客価値として説明できていない
  • エビデンスを作るべきか、販売を優先すべきか判断できない

01

状況どの段階で、何に困っていたか

一般消費者向けの香水を主力としてきたメーカーが、法人向けのディフューザー事業を新たに始めていました。温浴施設や美容関係の施設から引き合いがあり、事業としての手応えは得られていました。

次の展開として、介護施設やヘルスケア領域への拡大を検討します。しかしこの領域では、これまでと同じ売り方が通じませんでした。

温浴施設や美容施設に対しては「快適な空間をつくる」という説明で足ります。一方、介護施設に対しては「香りが入居者にとって何の役に立つのか」を説明する必要があります。長年のフレグランス開発で培った知見はあっても、それをこの領域の言葉で示す根拠がありませんでした。

引き合いに応じる形で事業が進んでいたため、温浴・美容・介護のどこに集中すべきかも決まっていません。

該当する課題は「最初の顧客はいるが、売れ方に再現性がない」「どの市場・どの顧客に集中すべきか定まらない」「技術やサービスの強みを、顧客価値として説明できていない」でした。

02

逆算目的から考えたとき、何がボトルネックだったか

目的は、香りの法人向け事業を、引き合い待ちの状態から、自分たちで広げられる事業にすることでした。

そこから逆算したとき、必要なのは営業先のリストでも新しい製品でもありませんでした。「介護・ヘルスケアの現場で、香りが何をしているのか」を、その領域の言葉で示せる根拠です。

そこでまず現場に入り、試験運用を行いました。ここで前提が崩れます。

ディフューザーを設置しても、高齢者が香りに気づいていなかった。 売り方以前に、製品が相手に届いていなかったのです。

この事象から、ひとつの仮説が立ちます。高齢者には、本人が自覚していない嗅覚の低下があるのではないか。 もしそうなら、これは「製品が効かない」という話ではなく、「気づかれていないこと自体が、この領域で解くべき課題である」という話になります。

検証すべきものが、ここで入れ替わりました。香りの良さを証明するのではなく、嗅覚が落ちていること、そしてそれが自覚されていないことを確かめる。それが次の一手になりました。

03

実施HILUCOが実際に何をしたか

実態調査の設計と実施 — 高齢者施設で、香りの知覚と自覚のずれを調べました。結果、施設に設置したディフューザーの香りに気づけていない高齢者が約70%にのぼる一方、香りの感じ方の不調を自覚している高齢者は約20%にとどまることが分かりました。

この差そのものが、仮説の裏づけになります。嗅覚は落ちているが、本人はそれを認識していない。「隠れ嗅覚障害」と呼べる状態です。

介入の検証 — 続いて、香りを嗅ぐことで嗅覚機能に働きかける「鼻トレ」を高齢者施設で実施しました。結果、約90%の高齢者で嗅覚に対する意識の変化が見られ、一部では味覚の主観的な変化も確認されています。

課題があることを示すだけでなく、それに対して打ち手が効くところまで確かめたことで、事業としての筋道が通りました。

知見の公表と、事業計画への接続 — 得られた結果を公表し、それをもとに事業計画を組み立てました。加齢に伴う嗅覚低下が食欲やQOLの低下につながるという着眼を、事業の柱に据えています。

補助金申請 — 「介護施設における香り活用嗅覚トレーニングサービスの開発」として、東京都の「令和7年度 高齢者向け新ビジネス創出支援事業」に申請し、採択されました。この資金で、介護施設等との連携体制の構築と実証を進めています。

04

変化何がどう変わったか

ディフューザーという製品を納品する事業から、嗅覚機能そのものに働きかけるサービス事業へ移りつつあります。

香りの提案が「快適な空間づくり」から「健康機能への働きかけ」に変わったことで、介護施設に対して説明できる価値が変わりました。引き合いを待つのではなく、解くべき課題を自分たちで定義して提案する側に回っています。

同時に、集中すべき市場も定まりました。温浴施設や美容施設と介護施設を同じ売り方で扱うのをやめ、後者に対しては別の根拠と別の提案を用意する、という整理ができています。

長年のフレグランス開発で培った知見は変わっていません。変わったのは、それをどの領域の、どの課題に向けて差し出すかという設計です。

確認できた変化

  • 施設に設置したディフューザーの香りに気づけていない高齢者:約70%
  • 香りの感じ方の不調を自覚している高齢者:約20%
  • 「鼻トレ」実施後に嗅覚への意識の変化が見られた高齢者:約90%
  • 東京都「令和7年度 高齢者向け新ビジネス創出支援事業」に採択(介護施設における香り活用嗅覚トレーニングサービスの開発)
  • ディフューザーを納品する事業から、嗅覚機能に働きかけるサービス事業へ展開中

Learning

新しい領域に出るとき、現場で試すのは「売れるかどうか」を確かめるためだと考えられがちである。しかし実際には、前提が成り立っているかどうかを確かめる作業になることがある。

この事例では、試験運用で「そもそも香りが届いていない」ことが分かった。ここで「効かない製品だった」と結論づけていれば事業は終わっていた。「なぜ届かないのか」を問い直したことで、届かないこと自体が事業機会に変わっている。

課題があることを示すだけでは事業にならない。それに対する打ち手が効くところまで確かめて、初めて資金調達も提案も成立する。問題の証明と、解決策の証明は、両方が要る。

参考

お問い合わせは hiluco.jp のフォームにまとめています。

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