事例
高齢者向けから働く世代へ。共同研究と資金調達で、新しい事業の柱をつくる
01
状況どの段階で、何に困っていたか
高齢者の認知症予防を軸に、医療・介護施設や自治体に向けて事業を展開してきた企業です。認知機能を測定・評価する技術を持ち、この領域では実績を積み上げていました。
一方で、成長の速度に構造的な制約がありました。保険制度や行政の予算に紐づく仕事は、単価も導入時期も外部の制度側で決まります。自分たちの判断で事業を伸ばせる幅が限られていました。
そこで、働く世代のメンタルヘルスを新しい対象にすることを検討します。ただし、この市場では次の三つが揃っていませんでした。
- 根拠がない。 高齢者の認知症予防で積み上げてきたエビデンスは、企業の人事部門に対する説明としては使えません
- 販路がない。 医療・介護施設や自治体への販路はあっても、企業向けの販路は持っていません
- 開発資金がない。 新しいサービスをつくるには、既存事業の利益だけでは足りません
該当する課題は「どの市場・どの顧客に集中すべきか定まらない」「研究成果やエビデンスが、営業の武器になっていない」「販路がなく、どう広げればいいかわからない」でした。
02
逆算目的から考えたとき、何がボトルネックだったか
目的は、制度に依存しない新しい事業の柱をつくることでした。
そこから逆算したとき、最初に手をつけるべきはサービス開発でも営業でもありませんでした。「認知機能を測ることが、働く世代にとって何の役に立つのか」を、第三者が検証できる形で示すことです。
理由は二つあります。企業の人事部門に対して「認知機能を測りましょう」と提案しても、それが業務にどう効くのかが示せなければ予算はつきません。そしてこの根拠は、開発資金を調達するときにも同じものが必要になります。
つまり、エビデンス・資金・販路は別々の課題ではなく、根拠を起点に順番に接続できる一本の線でした。ここで順序を間違えると、補助金は取れても売れるものができない、あるいは開発はできても説明ができない、という分断が起こります。
03
実施HILUCOが実際に何をしたか
共同研究の設計と接続 — 東京大学大学院医学系研究科の社会連携講座「デジタルメンタルヘルス講座」との共同研究を進めました。研究テーマは、論文のためだけでなく、企業向けの提案と資金調達の双方で使えることを条件に設定しています。
その結果、注意力・計画力・空間認識力といった認知機能の測定から、メンタルヘルスやワークエンゲージメント、業務効率との関連を確認できました。「認知機能を測ると、働く人の状態と仕事のパフォーマンスが見える」という、新しい市場に対する説明の土台がここで固まります。
研究開発計画と事業計画の一体化 — 研究で得られた根拠を、どのサービスとして、いつ、誰に届けるのかまでを一つの計画として整理しました。研究計画と事業計画を別々に書かないことが、この段階の要点です。
補助金申請 — その計画をもとに、経済産業省の先端技術活用メンタルヘルスサービス開発支援事業費補助事業に申請し、採択されました。申請のための計画ではなく、事業計画を公募要領の言葉に翻訳する形をとっています。
サービス開発 — 調達した資金で、次世代デジタルメンタルヘルスサービス「マインドメーター」の開発・リリースまで到達しました。
04
変化何がどう変わったか
高齢者の認知症予防という単一の領域から、働く世代のメンタルヘルスという新しい柱を持つ会社になりました。
制度と行政予算に成長速度を規定される状態から、自社の判断で伸ばせる事業を併せ持つ状態へ移っています。共同研究で得た根拠は、企業への提案材料であると同時に、補助金申請の裏づけとしても機能しました。同じ根拠が複数の場面で効いています。
補助事業の採択は、開発資金が入っただけでなく、導入する企業側にも費用補助が及ぶ構造をつくりました。売り手と買い手の双方に、導入する理由が生まれています。
確認できた変化
- 東京大学大学院医学系研究科 社会連携講座「デジタルメンタルヘルス講座」と共同研究契約を締結
- 認知機能とメンタルヘルス・ワークエンゲージメント・業務効率の関連を確認
- 経済産業省の先端技術活用メンタルヘルスサービス開発支援事業費補助事業に採択
- 新サービス「マインドメーター」をリリース
Learning
新しい市場に出るとき、足りないものは「エビデンス」「販路」「資金」と別々に見える。しかし着手の順序を決めるときは、これらを並列に置かないほうがよい。
この事例では、根拠をつくることが、企業への提案材料と補助金申請の裏づけを同時に生んだ。一つの投資が複数の場面で効く順序を選べるかどうかが、少人数のチームにとっての分かれ目になる。
また、既存事業で積み上げたエビデンスは、対象が変わればそのままでは使えない。技術が同じでも、相手が変われば示すべき根拠は作り直しになる。
参考
お問い合わせは hiluco.jp のフォームにまとめています。